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浦和地方裁判所 昭和24年(行)27号 判決

原告 鈴木栄一

被告 埼玉県農地委員会

一、主  文

被告が埼玉縣北足立郡片山村字栗原千百三十一番田八畝二十九歩に関して定めた買收計画について、原告の申し立てた異議を被告が棄却した昭和二十四年三月二日附決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨

主文同旨

三、事  実

原告訴訟代理人はその請求の原因として、原告は埼玉縣北足立郡片山村字栗原千百三十一番田八畝二十九歩を所有していたところ、被告は自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第四十七條第一項の規定による埼玉縣知事の命令に基き、昭和二十三年十二月二日本件農地につき同法第六條の二所定の買收計画を定め昭和二十三年十二月七日その旨公告し同月十七日迄関係書類を縱覧に供した。そこで原告は昭和二十四年一月十日頃右買收計画について被告に対し異議を申し立てたが、被告は同年三月二日これを棄却する旨の決定をした。その決定書は同月二十五日原告に送達せられた。

然しながら右棄却の決定は次の理由によつて違法である。即ち

(一)  本件買收計画は自創法第六條の二に則り、訴外鈴木フサの請求によつて定められたのであるが同訴外人は本件農地については同條にいう小作農に当らない。何となれば原告は昭和二十年八月中同訴外人と合意の上本件農地の賃貸借契約を解除し同年十月中同訴外人から本件農地の引渡を受け、これに各種の肥料を投入し、昭和二十年十一月二十三日当時においては既に鍬入れも終了し、耕作を始めていたからである。そしてそれ故に片山村農地委員会は昭和二十年十一月二十三日現在において、同訴外人が本件農地につき耕作の業務を営んでいたことを否定し、同人の右請求を容れなかつたのである。このように右鈴木フサは右規定の小作農に該当せず、從つて右規定による買收請求権を有しないのだから、同人の請求によつて定められた本件買收計画は違法である。

(二)  仮りに右の主張は理由がないとしても、訴外鈴木フサは昭和二十年に夫義治の爆死に会い、老父と三人の幼兒を抱えて、人手がなく本件農地の耕作を続けられないといつて返地を申出たので、原告はこれを承諾し同年秋の收穫の終るのを待つて、本件農地の返還を受けたのであつて、自創法第六條の二第二項第一号にいう解除が適法且つ正当な場合に当り、從つて本件農地は買收計画より除外されるべきものであつて、これを無視した買收計画は違法である。

被告の定めた本件買收計画は、右(一)(二)の理由によつて違法であり、從つてこれに対する原告の異議申立を棄却した被告の決定もまた違法として取消されねばならない。よつて原告は訴願手続を省き本訴請求に及んだものであると陳述した。(立証省略)

被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告の主張事実中原告が本件農地を所有していたこと、被告が自創法第四十七條により昭和二十三年十二月二日本件農地につき同法第六條の二所定の買收計画を定め原告主張の通り公告縱覧の手続をとつたこと、原告は昭和二十四年一月十日頃この買收計画について被告に対し異議を申し立てたが被告は同年三月二日これを棄却する旨の決定をしたこと、その決定書が同月二十五日原告に送達せられたこと、本件農地の賃借人訴外鈴木フサの請求により本件買收計画を定めたこと、訴外片山村農地委員会は昭和二十年十一月二十三日現在における同訴外人の耕作権を認めなかつたこと、同訴外人の夫が昭和二十年に爆死し、あとに老父と三人の幼兒が遺されたことはいずれもこれを認める。原告が本件農地につき昭和二十年八月中小作人である鈴木フサと合意の上賃貸借契約を解除し、同年十月中同訴外人から本件農地の引渡を受け、爾來この土地に各種の肥料を投入し、昭和二十年十一月二十三日現在において既に鍬入れも終了し耕作を始めたことはこれを全部否認する。昭和二十年十一月二十三日現在においては鈴木フサは同農地の耕作権を有していたものである仮に同日以前原告が本件農地に施肥耕起等をしたとしても、それは農地調整法第九條第六項の趣旨に反する不法な農地引上げであると述べた。(立証省略)

四、理  由

本件農地が元原告の所有であつたこと、被告が自創法第四十七條第一項の規定による埼玉縣知事の命令に基き昭和二十三年十二月二日本件農地につき同法第六條の二所定の買收計画を定め昭和二十三年十二月七日その旨公告し同月十七日迄関係書類を縱覧に供したこと、原告は昭和二十四年一月十日頃右買收計画について被告に対し異議を申し立てたが、被告は同年三月二日これを棄却する旨の決定をしたこと、その決定書が同月二十五日原告に送達せられたこと、はいずれも当事者間に爭がない。

原告は右の決定に対し訴願をしないで直に本訴を提起したというのであつて、行政事件訴訟特例法第二條の趣旨とするところは、訴願によつても不服申立の容れられない場合に初めて訴訟による救済手段を許そうとするものであるが、本件買收計画が自創法第四十七條第一項による埼玉縣知事の命令に由來することは前認定の通りであるからこの命令をした埼玉縣知事に対する訴願の手続を省き、直接本訴を提起したことは必しも右規定の本來の趣旨に反するものではない。而して右決定送達後、一箇月内である昭和二十四年四月二十一日に本訴が提起せられたことは本件記録により明白である。

よつて進んで本件農地の買收計画が違法であるか否かについて判断する。

右買收計画が本件農地の賃借人であつた訴外鈴木フサの請求によつて定められたことは当事者間に爭なく、原告は昭和二十年八月中同訴外人と右賃貸借契約を合意解除したから同訴外人は右買收を請求する権利がない旨主張するので、この点につき考えるに、証人土方惣八、同榎本呈三、同近藤万良、同鈴木長八、の各証言(但し証人鈴木の証言については後記措信しない部分を除く)と原告本人訊問の結果とを綜合すると訴外鈴木フサの夫義治は昭和二十年に空襲により爆死し、老父平吉と右鈴木フサの外に働き手がなくなつたので同訴外人は右平吉を通じて原告に対し同年の收穫を終つたら本件農地を返したいと申入れ、原告もこれを承諾していたこと及び本件農地は二毛作は全然出來ない田圃であり、通常は毎年稻の刈取りが終ると翌春までそのままにしておくのであるが、昭和二十年鈴木フサが稻の刈取りを済ませた数日後洪水があり本件農地も被害を受け、土砂が流れ込んでしまい(証人鈴木長八の証言中この認定に反する部分は措信しない)そのため耕作者としては翌年の春迄そのままにしておくわけにはゆかなくなつたところ、鈴木フサは洪水後の本件農地の始末をせず、田が土砂で埋つたまま原告に返還したので、原告は流込んだ土砂を運び出しその序にその頃既に本件農地を耕作していたこと、がそれぞれ認められるのであつて、要するに原告は昭和二十年八月中鈴木フサと合意の上本件農地の賃貸借を解除し、フサよりその引渡を受け昭和二十年十一月二十三日現在においてはフサは既に本件農地の小作農ではなくなり原告においてこれを耕作していたものと言わねばならぬ。証人山田賢治及び同鈴木フサの各証言中右認定に反する部分は前記各証拠に照らしてこれを信用し難いし、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

而して農地改革が一般に知られると、これを免れようとして名を解除に借り、小作地を取り上げる傾向が現われるようになつたので、昭和二十一年農地調整法の改正によりこれを制限するに至つたことは周知の通りであるが、前記合意解除当時においては行政機関の許可等の制限を受けなかつたのであるから右合意解除を不法とし、その効力を否定することはできない。

果して然らば鈴木フサは昭和二十年十一月二十三日現在においては本件農地について自創法第六條の二にいう小作農とは認められず、從つて同條の規定に基く遡及買收請求権を有しないものと謂わねばならない。そうしてみると同人の請求によつて被告が定めた本件買收計画は自創法第六條の二の規定する要件に欠ける違法なものである。從つてかかる違法な買收計画に対する原告の不服の申立は正当であつたのに、この買收計画を取消さないで原告の異議申立を棄却したことは失当であり、被告の昭和二十四年三月二日附本件異議棄却決定もまた違法として取消さるべきである。

仍つて同決定の取消を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條の規定を適用し主文の通り判決する次第である。

(裁判官 梶村敏樹 大澤龍夫 西廸雄)

(目録省略)

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